喧しかった双子が両親に引き取られていくと、広い家に再び静寂が顔を出す。同じタイミングで退避していたシバ猫もどこからか姿を現して、文俊に餌を強請った。 一息ついた真柴はというと、昨日やりかけたままのゲームが気になるのか、いそいそと筐体の準備を始める。その速さと来たら、シバ猫に餌をやり終えた文俊がリビングに戻ってきた時には既にテレビに齧り付く後ろ姿があったくらいだ。 「幾つになっても、ゲーム好きは変わらないね」 「ふふ、俺、一生これは変わんないですよ」 苦笑いをしながら、定位置になった真柴の膝に頭を乗せる。そうして視線が床に近くなったその時、赤い缶が申し訳なさそうに転がっているのを見つけた。拾い上げてみれば、なんとも懐かしい缶入りのドロップだ。双子のどちらかが忘れていったのだろう。軽く振ってみると高い音。中にはまだかなりのドロップが入っていることが伺えた。 「あれ、忘れ物ですか?」 「だろうね」 「懐かしいなぁ、俺、それ好きでした」 「ふぅん?」 金具を当て嵌めただけの簡単な留め具は、指で引き抜くと甘い香りがした。手のひらに降り落としてみると、赤色と白色、二つのドロップが同時に零れ落ちる。文俊は逡巡して、赤い方を自分の口ヘ、もう片方はゲーム画面へ視線を戻した真柴の口に運んだ。彼は笑いながらそれを頬張り、味変わんないですね、と幼い顔で笑った。 久々に食べるその味は、なかなかどうして美味だった。真柴の膝を枕にして携帯をいじっているだけですぐに溶けて無くなってしまう。口が寂しくなった文俊は、またしても缶を手にした。次に出てきたのもやはり二つ。黄色と白色の2色を見て、迷うことなく黄色を口に入れ、残りを真柴へ。真柴は最初こそいいんですか?と笑って口を開けたが、すぐにその短い眉が寄った。 「……もしかしてあやさん、ハッカ嫌い?」 図星をつかれて文俊は素知らぬ顔をする。 「そんなことないよ。たまたま出てきたのがハッカ味だったってだけ」 「嘘だ、さっき黄色のもあったの、見えてましたよ」 ゲームを操作する手を止めて、口の中のハッカ飴を転がしながらじっとりと目を向けてきた真柴は、そのままいい機会だとばかりに説教をはじめてしまった。 「あやさん、飴にまで好き嫌いしてるんですか? ダメですよ、なんでも食べなきゃ……、だいたい今日だって――」 こうなると長い。今日双子と過ごした中でのことを指摘し始めた彼に、文俊は小さく溜息をつき、言葉を遮るように勢いよく半身を起こした。「はいはい、わかったよ」急な動きに真柴が口を噤んだ次の瞬間、彼の胸元を掴んでその唇に噛み付くみたいなキスをする。驚いた真柴がコントローラーを落とし、ぎゅっと両目を強く瞑った。固く結ばれた唇をひと舐めすると、まるで経験が少ない少年のようにびくりと体が跳ねて唇から力が抜けていく。その隙に舌を絡ませ、口蓋を舐った。わかりやすく反応する体はいっそ愉快だ。薄目に様子を伺うと、眉根を寄せた情けない顔が目に入る。 「な、……え……!?」 「ほら、これでいいでしょ」 唇を離すなり、真っ赤な顔で動揺を口にする真柴に、にやりと笑って口を開けてみせる。その中には先程まで真柴の口にあったハッカ飴。状況を理解するなり真柴は片手で口元を覆い「何も俺の口から食べなくても」と弱々しい声を出した。 「だって次も出てくるか、わからないじゃない」 「いや、それは、そうですけど……」 真っ赤な顔はモゴモゴと言葉を濁し、遂には恥ずかしさで俯いてしまう。その様子がおかしくて「君のそういうところも一生変わらなさそうだね」と笑ってしまった。同じセリフを引用されて、恥ずかしいやら悔しいやら、綯い交ぜの真柴が唸るまで、もう少し。 //ハッカ飴(真柴と文俊のはなし)
2023-06-23 |