「彗星から人は生まれたんだって。知ってた?」

散々ゲームをして、菓子を食べ、騒ぎ、時刻は既に午前二時を回っている。そろそろ寝ようか、なんて言ってベッドを示してきたのは翔馬なのに、こちらが殆ど夢の世界に足を引っ掛けたころにそんな問いかけをしてきた。一緒に泊まっている友人達は既に爆睡しているらしい。唯一意識が定まっていた華虎は、返事をしてから数秒後、寝たふりをしたらよかったと後悔をした。

「いきなりなに」
「いや、明日流星群くんだって。で、先生に聞いた話思い出した。アレ、マジなんかな」
「……かなり大きな規模で言うなら、そう言えないこともない」
「かなりってどんくらい?」
「太陽系くらい」

華虎の返事に、スケールやばい、なんてケタケタ笑いながら彼はスマートフォンを操作する。画面には二十年振りだという流星群のニュース。流星群なんて、いつ見たのが最後だろうか。――母が生きてた頃に、兄を交えて行ったくらいか。

「それって具体的にはどういうことなん?」
「地球が生まれて、海が出来たばかりの頃は、まだ隕石が沢山落ちてたってのは知ってるだろ。……その隕石に含まれてた物質が、水と結合して微粒子になって単細胞生物……お前みたいなのが生まれたんだって」
「えっ? さりげなく俺、ディスられてる?」
「人が寝るタイミングで話しかけてくるやつはディスられても仕方ない……」

絶対にたいして気にしてない癖に、翔馬は態とらしく眉を落としてみせた。こんなにも明瞭に解説ができるのは、以前小説を書く時に調べたからだ。どんな話を書くか迷った時、とりあえず自分の知らないジャンルのことを調べてみるのは良い切っ掛けになる。翔馬の弄っている画面に数多の情報が映し出されている様を見ながら、結局この知識は使わなかったな、なんて思い出してしまった。なるほどなぁ、と感心する素振りを見せた翔馬が、スマートフォンに気を取られて沈黙すると、じわりと睡魔が忍び寄る。自身の体温で温まっていく布団の感触に、華虎の瞼がまたゆっくりと落ちていった。

「なぁ、じゃあさ」

またもや眠りに落ちる絶妙なタイミング。反射的に返事をしてしまって、また後悔をした。

「……なに」
「面白いよなー、生まれた場所に、お願いかけるんだもん。ほら、三回唱えるってやつ」
「あぁ……」

誰が言い出したのだか知らないが、そんな迷信も確かにある。実践したことはないけれど、確実に無理であろうその難題に翔馬が抱いた関心は、少し面白い視点だった。次はそういう話を書いてみてもいいかもしれない。流れ星に祈る、自分の起源に祈る。眠気と戦いながらそんなことを考えた。

「流れ星にさ、明日願い事するとしたら、何にする?」

「……寝かせてくれ、だな」

今度こそ華虎の瞼は落ちてゆく。待て待て、だなんて更に夜更かしへと誘う魔の手を無視して布団を口元まで引き上げた。もう眠い。眠いと思考も纏まらない。――だからだろうか。もう何を書いたって、小説家になることなんて出来ないのに、それでも小説を書くを考えてしまうのは。うとうと、水中で揺蕩うような感覚の中、今日は夢を見そうだと思った。小声でお願いごとを繰り返し練習しているらしい翔馬に、うるさい、と布団の中から背中を蹴る。

多分、彗星の夢だ。それから、ほんの少しの憧憬。



//揺蕩う予感(翔馬と華虎のはなし)







2018-03-18