月に一度、近所の寺では門徒の子供たちを集めて子供会が行われていた。香の親は休日仕事が多く、家に一人でいるよりはという理由で香もその子供会に参加をさせられていた。元々人見知りである香にとって、知らない子供たちがたくさんいるその環境は恐怖以外の何物でもなかったのだが、それでも比較的慣れるまでに時間がかからなかったのは、子供たちを面倒見ている大人の中に一人だけ混じっていた学生のおかげだった。

彼は寺の人間ではなく、ただの門徒の一人だったが子供会の日は必ず参加をして、集まってきた子供たちに混じって一緒に遊んでいるような人物だった。明るくて優しい、香にとってはどちらかというと世界の違う人だった。

誰とも馴染めずに本堂の隅っこで小さくなっている香を見つけたその人は、一直線にこちらに向かってくる。目が合った。逃げたい。けれども足は動かない。香の目の前までやってきた彼は、口を開くことはなかった。何も言わずに酷く優しい笑顔で両手を広げて、おいで、と示して見せる。害の無い笑顔だと思った。気付いたらその両手にこちらからも手を差しのばし、次の瞬間には彼の暖かさに包まれていた。


***


「ってことあったよな」
「へぇ……!?」

建花寺の本堂にて、次の子供会に使う花紙をのんびりと作っていると、唐突にそんな爆弾を投下されて思わず声が上ずった。投下した側の華虎は、意地悪でもなんでもなく本当に、ふと思い出しましたというような何でもない顔だ。子供会に参加する立場だった香も、いつの間にか準備をする側に回る歳だ。あの頃のことを思い出すといつも同じ人が浮かんでくる。

「ハナちゃんって、ほんと、記憶力いいよね……」
「うん、結構自慢」
「……そうだね、あの頃ほんと、ヨシ兄のこと大好きだったなぁ」

「あれ、過去系なんか?」
「……っ!?」

出来た花紙を弄りながら過去に思いを馳せて呟くと、唐突に後ろから飛んできた低い声に今度こそ二の句が告げられなくなった。いつの間にか本堂に入ってきていた仁義は、酷く楽しそうな表情を浮かべたまま抱えた大きな仏花をその場に下ろす。にんまりとしたその表情は、返事がわかっているのに問いかけている意地悪な顔だ。

「ヨシ兄、香を苛めるのは良くない、また知恵熱出す」
「いやー、そういう流れかなと思って」

華虎が片眉を上げて笑って見せると、仁義も同じような顔をして見せた。驚きと照れに彼らを直視できない香だけが、ずるいなぁと眉を落としてみせるのだ。今までもこれからも、香が二人の事を大好きな事くらい、わかっている癖に。





//ずるいふたり(香・華虎・仁義のはなし)







2018-01-06